ドビュッシーの「レントより遅く」という曲を推薦します。

ドビュッシーはフランスの作曲家。19世紀末から20世紀初頭にかけてフランスが一番美しく輝いた時代の作曲家です。「レントより遅く」は1910年に作曲されました。

 

私がこの曲を初めて聴いたのは1999年4月でした。

場所はパリのアパルトマンの一室。渡仏してまだ2週間しか経っていない頃でした。

 

夢を追いかけパリにやってきたものの、はじめてのパリ生活の滑り出しはあまりいいものではありませんでした。フランス語は通じない、フランス人の気質がよくわからない、買い物の仕方が日本とは違うなどなど。新しい文化にまったく歯が立たず、渡仏2週間にして早ホームシック状態でした。

 

そんなときどこからともなく、「レントより遅く」が流れてきました。CDじゃありません。誰かが弾いているのです。レ♭ミ♭ファから始まるメロディーは物憂げに聞こえます。

はっきりしない調性がなにか不安定な気持ちにさせます。けれど徐々にメロディラインは可憐な乙女を思わせるような響きになり、胸の高まりと前半部の盛り上がりに突入します。

 

私はかつて日本でピアノを長年習ってきたのに、ドビュッシーの曲も弾いたことがあるのに、この曲は知りませんでした。

けれども、すぐにこれはドビュッシーの曲だとわかりました。そして隣室の住人が弾いているのがわかりました。それからしばしば「レントより遅く」は聞こえてきました。

 

やはり出だしは物憂い。けれど、いつの間にか太陽の光に包まれるような気分にさせてくれるこの曲の題名をどうしても知りたくて、ある日勇気を出して隣人に聞いてみました。

隣人はニース出身の女学生でした。その日以降私のパリでの生活は「レントより遅く」の曲調のようになったのでした。

 

Claude Debussy, ‘La plus que lente’